19世紀によって準備された理想と夢によって開かれ、その実現に向けて始まった20世紀は科学の世紀であり、そして華やかで素晴らしいデザインの世紀でした。しかし一方で、それは強い光によって生じた濃い影のように大都市の出現と人口増加、国境のボーダレス化に伴う固有文化の変容をもたらし、南北、民族、宗教、環境破壊、ジェンダー問題など「異文化間コミュニケーション」の新たな課題も生み出してきました。

そうした中で科学技術はさらに進歩し、地球環境と遺伝子への追求の旅がはじまりました。それは私たちにとって循環する環境というダイナミックなマクロの視点の獲得であり、ミクロ・レベルで行われている不可視のコミュニケーションの発見でもありました。それらを特徴付けているのは私たち自身のそれまでのアイデンティティを揺さぶるような宇宙的で生態的な存在認識の発見とも言えます。

さらに私たちにとって最も身近なメディアの大きな変容の波が訪れました。大衆消費文化の登場と芸術のアヴァンギャルドによって始まったグラフィック・メディアによる視覚イメージの拡張、それと平行した映画、ラジオ、レコード、テレビ、コンピュータ、ワールド・ワイド・ウエッブといった五感全体に及ぶマス・コミュニケーション・メディアの登場と浸透です。
さらに携帯電話、DTP、パーソナルコンピュータなどがもたらしたデジタル上のインタラクテイブなモバイル・メディアは、家族や学校や会社といった従来の社会共同体に加えて個人を中心にした新しいネットワークやコミュニティの出現も可能にしています。

いま、私たちはかって産声をあげた20世紀の初頭とは違った枠組みを作り出す必要に迫られています。それは生物としての人間、地球と人間圏の関わり方、文明社会の中での人間としての視点から、再び人とコミュニケーションをどのように解きあかすかという問題です。そこではデザインに何が可能なのか、来るべき時代にふさわしいデザインのヴィジョンとは何かが切実に問われているといってよいでしょう。未来のコミュニケーションとデザインを考える時、現存する社会的な枠組みでみていくことには限界があります。
私たち視覚伝達デザインにかかわる者にとって、ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインが今決別するべき過去と、継続すべき遺産を未来に対して見極め、新しいデザインの方向性を見つめた上で、私たちは過去の規制の条件を解き放って、新たな関係性を考える基本のところから見直すことにより、デザインを組み立てることから始めようと考えます。

その為には新たなデザインとコミュニケーションのヴィジョンに興味と関心を持つ人々によるコラボラーションの場所を作る事が最も重要なことだと考えます。
すでに私たちは人間がこれまで生み出してきた豊穣なビジュアライゼーションの成果を今日的な視点と状況から読み直し再組織すること、いわば過去と現在の時空間のコラボレーションを行なうことによって生み出される新たなデザインの枠組みの模索や、必要に迫られての他領域との共同作業を始めてきました。さらに芸術、建築、プロダクト・デザインなどの隣接領域はもとより哲学、認知科学、情報工学、生態学、音楽など異分野の専門家あるいはダンサーやミュージシャンなどのパフォーマ−、環境活動を実際に行っている人々などとの「コミュニケーション」を軸とした積極的な共同作業を必要としています。
また大学の研究室はもとより若い学生から、今社会でデザイン活動をはじめた人、すでに豊かな見識をもったクリエーター、さらに国境や人種を超えた人々など世代と所属する場所を超え、さらに健常者と障碍者やデザインの送り手と必要とする人双方を包括した関係にたった積極的なコラボレーションも必要であると考えています。

私たちはカメレオンが視覚を通して環境からの影響を受けその身体を変化させるように、このプロジェクトに参加する者たちがコラボレーションを軸に活動を積極的に行い、それを蓄積することの中から新しいヴィジュアル・コミュニケーション・デザインのかたちを発見しそれを社会に発信していこうと考えています。カメレオン・プロジェクトは上記の目的を可能にするために、組織体としてのプロジェクト作りそのものも参加者によって積極的にデザインされるべきだと構想しています。

[主な活動]
1:メンバーによる具体的な研究および制作発表、活動の公開。
2:ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインを軸にし他領域も巻き込む展覧会、シンポジウム、講演会、ワークショップなどの開催。
3:ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインとその教育活動に関するデータの収集と保存、分析。その為に必要なデータベース、アーカイブの構築と公開。
4:企業・公共機関などとの共同研究における新しいコラボレーションの探究と展開。
5:上記の各種活動のWEB公開、広報誌、機関誌、書籍などの発行。

[組織について]
1:対象者
ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインに大きな関心を持って、社会活動、研究活動をしている全ての人々により構成される。
2:運営形態
当面は事務局とサーバを武蔵野美術大学視覚伝達デザイン研究室におく。連絡はメールまたはファックスによって行う。NPOとして組織運営を行う。
3:参加者同士のコラボレーション、情報交換を活発化するために入会に際してプロフィール登録を全員が行う。
4:年会費
諸活動の運営やアーカイブ及び広報活動などにあてる費用は会員の年会費をベースとする。
5:ボードメンバー
カメレオンの理念に即した活動をディレクションしていくとともに、会員相互による積極的な活動の公開や促進を促す。
7:事務局メンバー
カメレオンの組織体制を円滑に推進する為、予算管理や各種連絡他などの事務局運営にあたる。
8:広報活動メンバー
カメレオンの活動を随時記録し、ホームページや広報誌・機関誌などで情報発信していく。